坂本龍一の記念すべきデビュー・アルバム「千のナイフ」。1978年4月から 7月にかけて録音され、同年10月にリリースされました。この1978年には、細野晴臣「はらいそ」が4月に、Kraftwerk「The Man-Machine」が5月に、高橋幸宏「サラヴァ!」が6月に、そしてYellow Magic Orchestraのデビュー・アルバムが11月にリリースされています。そんな時代背景を振り返りながら改めて聴いてみて、このアルバムに秘められた恐るべきパワー、後の音楽界に与えた影響力の大きさを再認識させられました。 教授は「・・使用人が小さな店をもたせていただいた・・」とライナーノーツに記していますが、プロの音楽家として初めてソロ作品を世に問うことが出来た喜びもここに感じられます。1曲目「サウザンド・ナイブズ」は、ヴォコーダーのイントロからして教授が別世界の住人であることを示しています。細野さん同様のエキゾチシズムが充満しており、2人は出会うべくして出会ったことを納得。そして、渡辺香津美のギター・ソロの凄さには今も圧倒されます。2曲目「アイランド・オブ・ウッズ」は、教授のクラシックの素養が充分に発揮されており、実験的でもある。シン・ドラムスの鼓動が虚空に解き放たれ、巧みに操られた電子音に海のイメージも喚起させられます。3曲目「グラスホッパーズ」は、高橋悠治のピアノが加わり非常に端正な印象を受けます。そして、どことなくジャズ風に展開。終盤は、明快なメロディと共にリズミックに演奏されていきます。教授の原点と言えそうな曲。 以上、3曲で計24分45秒と記載されており、ひとつの組曲と捉えた方が良いと思います。4曲目「ダス・ノイエ・ヤパニッシェ・エレクトロニッシェ・フォルクスリート」には、土着的なイメージが。沖縄音楽風であり、正に細野さんの世界に相通じるものがある。まったりと進んでいきますが、山下達郎のカスタネットのタイミングは絶妙。5曲目「プラスティック・バンブー」では、シン・ドラムスが効果的に使われており、このままディスコで通用しそう。このアルバムでは、最もストレートな曲であり、小難しく考えないで、このリズムにただ身を任せるだけでいいような気もします。6曲目「ジ・エンド・オブ・エイシャ」は、Yellow Magic Orchestraでも演奏されました。ここでは渡辺香津美のみの参加ですが、リズミックであり、細野さんはベース(または理力)を加えたかったに違いありません。 「千のナイフ」は、新たな世界の誕生を告げる歴史的な作品だと思います。